2009.
11.
07
00:00:00
前サイトのリサイクル。
東より戻りし太陽。
これが初だったなぁ。
手塚、住吉、戸田の中学生ライフ。
東より戻りし太陽。
これが初だったなぁ。
手塚、住吉、戸田の中学生ライフ。
薄暗い鉄橋の下。
時折電車が通っては車内からの光をばら撒いて通り去る。
暗闇に映し出されるのは数人の人間とゴミを荒らす鼠。
どこからか流れてきた水が激しい攻防を繰り返す彼らの足元を濡らしていく。
そこは素行の悪い少年達の溜まり場だった。
三人。
少年が既に地に倒れていた。
残りの二人と対峙しているのは青年と言ってもよいくらいの少年一人。
五倍の人数の相手を少ない攻撃で確実に沈めていく彼は、ずれた細身のフレーム眼鏡を左の手で直した。
最後に放った回し蹴りが二人のうち片方の少年の腹に決まり、吹き飛ばされた先に居たもう一人も壁にいっしょに叩き付けられて動かなくなった。
軽く身だしなみを整えた少年の顔が、彼らの頭上を通りすぎた電車の光で一瞬浮かび上がる。
反射する眼鏡の奥にあるのは氷よりも冷めた瞳。
まだ意識のあった少年が、返り討ちに合った相手の口元に浮かぶ笑みに気付く。
自分たちを見下ろす勝者の笑みは、片頬をわずかに引きつらせただけのもの。
それだけでその場の空気をすべて支配する少年は絶対的な存在だった。
立場の違う、絶対的な勝者。
かすむ意識の中で、地に伏す彼は悟った。
この少年は外見通りの人間ではなかったことに。
黒い髪に知的な眼鏡をかけた少年は絡んできた少年達に言い捨てた。
「力量を見極められないくせに人数で勝とうとするからだ。無様だな」
少年は何事もなかったようにその場を立ち去った。
***
高い空に入道雲がのっそりと動いている頃。
駅近くにあるコンビニへの唯一の通り道に、数人の学生が道を塞ぐ形でたむろしていた。
獅子学中の生徒である彼らは学生服を着たまま遊んでいた。
その付近を仕切っている不良少年だった。
特にやることもなかった彼らは、あまり見かけない一人の青年に絡んでいた。
数人で相手を囲い話し合いで相手から金銭を譲り受けたり、暴力で財布ごと巻き上げたりしようという魂胆があったからだ。
平凡で刺激のない日々を面白く過ごすことに懸命な彼らは、少しのスリルを味わうことに飢えていた。
肩よりも少し長い髪を日に輝く金色に染めている青年を、五人で囲み現金を出すよう要求した。
金色に染めているが同じ年頃の相手だ。
人数ではこちら側の方が優位にあるので少年達は自分たちの勝ちを確信していた。
しかし、彼らには少し間違いがあった。
肩より少し長い金髪の彼は彼らと同じ中学生であった。
そして、先日少年らを鉄橋の下で叩きのめしていった優等生タイプの、青年のような少年と同一人物。
九州に帰ってきた、獅子学中の手塚国光だ。
「見かけない顔だな。この道は有料なんだ。通行料払ってもらおうか」
「俺達は親切だからな。情報料も上乗せして払わせてやるぜ」
不良の一人が金髪の彼の肩を掴む。
「一人で俺達に敵うわけねーんだから、大人しく払えよ」
手塚は自分の肩を掴んでいる少年の手を叩き落とした。
まるでゴミを払うかのような仕草に一瞬、叩き落された手の人物は何をされたのか理解できなかった。
自分の周りを囲んでいる不良達の顔を見渡して、手塚は目を細める。
「進歩のない奴等だ」
馬鹿にした声で手塚は言った。
不良達のリーダー松林はその声に聞き覚えがあった。
数日前の夜、喝上げをしようとして返り討ちにされた少年と同じ声だと思い出す。
「ぁんだとっ」
気の短い一人が手塚の胸倉を片手で掴んで、今にも殴りかかろうと左の拳を握った。
首元を絞められた格好のまま、手塚は相手を見下した目で静かに見やる。
間近で射貫くような瞳に睨まれ、少年は殴りかかろうとしていた格好で固まった。
「おい、大滝何びびってんだ。なぐらねーの?」
手塚の後ろ、手塚を囲む不良達の後ろに目立つ赤い髪を四方に立たせている男がいた。
「そいつに手上げといて、ナニするつもりだったんだ、あぁ?」
「げっ、住吉!」
誰かがそう言って、不良達は手塚から離れた。
大滝と呼ばれ、手塚を殴ろうとしていた少年も数歩後ず去る。
赤い髪の住吉は乱れた服を直している手塚の隣に立った。
遠巻きに警戒している松林らを無視し、住吉は手塚に話しかけた。
「国光買い物か?」
「あぁ。久慈に頼まれた。お前はどうしたんだ?」
手塚が尋ねると住吉は肩をすくめて言った。
「ストロベリーチョコのアイスが食いたいだと」
それに手塚はクスリと笑い、「綾だな」と呟いた。
住吉はそれに何も返さなかったが、無言は肯定と同意だった。
二人に無視された松林達は怒りで顔を真っ赤にし、先ほどとは打って変って、二人に殴りかかってきた。
「てめーら、俺達を無視してんじゃねぇぞっ!」
「馬鹿にしやがって。ゆるさねー!!」
五人に一気に襲われた手塚と住吉だったが、臆する事もなく冷静に避けていた。
「上総、下がってろ。最初に売られたのは俺の方だ」
「知るかよ。俺にも楽しませろ」
右から襲ってきた拳を避け、バランスの崩れた相手の腹に左膝で蹴りを入れた住吉はとどめに相手の背中に肘鉄を食らわせた。
手塚はその間に二人を地に落とし、三人目の松林を綺麗な背負い投げで沈めた。
受身を取るまもなく地面に叩きつけられた少年達は背中の痛みに声にならないうめき声を上げる。
最後に残ったのは大滝少年で、彼は圧倒的な力の差を見せられてたたらを踏む。
「あ、お前、何なんだよっ」
冷ややかに笑った手塚はポケットから眼鏡を取りだし掛けて見せた。
昼と夜の違いはあれど、口元に浮かぶ勝者の笑みに見覚えがあった。
「あのときのムカツク野郎!」
大滝は悲鳴のような声で叫んでいた。
「犬でさえ一度しつけられれば覚えるんだ」
暗に犬以下だとほのめかす台詞に住吉が笑い声を上げる。
「国光、相変わらずひでー野郎だな」
「褒め言葉だな」
手塚はそう言って、立ちあがることもできない松林たちをそのままに歩き出した。
並んで住吉もコンビニへと向う。
残された少年達はしばらくの間屈辱に体を震わせていた。
翌日の朝。
獅子学中の三年生の教室前の廊下で少年達が談笑していた。
男子テニス部部長の戸田は遊び仲間である松林に話しを振った。
「そーいや、聞いたんだけど。お前等ボコられたんだって?」
それに嫌な顔をしながらも松林は答えてやった。
「っせーな。誰に聞いたんだ、んな話し」
「住吉上総」
ニヤリと笑って戸田は言った。
「上総はテニス部員だからな」
それを聞いて舌打ちした松林に戸田は爆笑した。
「戸田、てめーわざといいやがったな!」
「おいおい、冗談だって」
「くそっ・・・、それにあいつもムカツク野朗だ」
「ん?誰んこと言ってんの?」
尋ねる戸田に松林は少し考えてから話した。
「最初は黒い髪に眼鏡掛けててまんま優等生な奴だったんだけど、昨日は金パに眼鏡外してた奴とヤリあって・・・負けた」
「金パ?」
「住吉と知り合いみたいだった。すっげーヤバイ感じ」
住吉上総といえば高校生や他校の不良と喧嘩を繰り返す問題児で、獅子学中では有名だった。
運動部に所属している為、住吉は自分から喧嘩を吹っかけることはない。
しかし良くない噂は後をたたない。
「あー、それ国光のことか」
「あぁ?戸田も知ってんのかよ、そいつのこと」
松林が意外そうに聞き返した。
「お前覚えてねーの?ほら、あいつ」
戸田が向こうを指差した。
指された先にいた金髪の男に松林は驚いた。
「あいつっ、ここの奴だったのか?!見たことねーぞっ」
「こないだ東京から戻ってきた。手塚国光。松林もよく喧嘩吹っかけてたじゃん」
小学生の時、と言われ松林は少し引っかかっていた物を思い出した。
「てづか・・・あの手塚かっ!」
「それそれ。国光相手ならお前に勝ち目ないじゃん」
「戸田」
先ほど向こうにいた手塚に声を掛けられ、戸田は片手を上げた。
「よぉ。はよ、国光」
「あぁ、おはよう。久慈が探してた。顧問に呼ばれてるそうだ」
「あのじいさんまた変なこと思いついたんだろ。面倒くせー」
「ククク、ご苦労なことだ。俺も部長の大変さはわかるつもりだ。同情する」
手塚の言葉に戸田は笑った。
腹を抱えて手塚にもたれ掛かった戸田はしばらく笑いつづけた。
「つもりって、むこうでやってたんだろ?お前も」
手塚が口元をあげて苦笑した。
「優等生を演じるのは簡単じゃなかったさ。部長の仕事も生徒会長さえもやらされたんだ」
金髪に見え隠れする左耳のカフス、シャツのボタンを二つ外して着ている手塚は一見不良にも見える。
松林は手塚の言葉を信じられず、自分の耳を疑った。
「あんな今時いないような黒髪眼鏡じゃ、それもしかたねーじゃん」
「まぁ、その見返りは学園の信用と権力だったから楽しめたがな」
手塚の冷めた笑みを見て松林は寿命が縮んだ気がした。
そこにいたのは"他人を道具としてしか見ていない"人間だった。
手塚は松林に気付いていないようで、用は済んだとばかりに立ち去る。
「伝えたからな」
「おう。サンキュー」
松林とは逆の方向、来た道を戻っていった。
「なぁ、松林。お前気を付けとけよ?今国光がお前のこと睨んでたぜ」
ひょうひょうと戸田が言うので松林は一瞬言われたことを理解できなかった。
「は?・・・気付いてなかったじゃねーか・・・」
「ちゃんと気付いてたぜ。俺が国光のこと指差した時から」
「まさか、嘘だろ?」
松林は背中を冷たい汗が流れる嫌な感触に身震いした。
夏もこれからだと言うのに、松林には極寒の地にいるような気持ちだった。
「殺されはしねーから安心しろよ〜」
無責任に声をかける戸田に殺気を覚えたが、手塚が戸田と親しいことを思い出し松林は青くなった顔で頷くに留めておいた。
「俺、今日はもう帰るわ」
力なく去っていく松林を見ながら、戸田は悪戯に成功したような顔で必死に笑いを堪えていた。
「しばらく退屈しねーよなぁ。後で久慈にも言っとこ。いやぁ、楽しみ楽しみ」
彼もまた、刺激のない学校生活に退屈していた学生の一人だった。
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脱稿2003.11.10 大星
再掲載2009.11.07 大星
時折電車が通っては車内からの光をばら撒いて通り去る。
暗闇に映し出されるのは数人の人間とゴミを荒らす鼠。
どこからか流れてきた水が激しい攻防を繰り返す彼らの足元を濡らしていく。
そこは素行の悪い少年達の溜まり場だった。
三人。
少年が既に地に倒れていた。
残りの二人と対峙しているのは青年と言ってもよいくらいの少年一人。
五倍の人数の相手を少ない攻撃で確実に沈めていく彼は、ずれた細身のフレーム眼鏡を左の手で直した。
最後に放った回し蹴りが二人のうち片方の少年の腹に決まり、吹き飛ばされた先に居たもう一人も壁にいっしょに叩き付けられて動かなくなった。
軽く身だしなみを整えた少年の顔が、彼らの頭上を通りすぎた電車の光で一瞬浮かび上がる。
反射する眼鏡の奥にあるのは氷よりも冷めた瞳。
まだ意識のあった少年が、返り討ちに合った相手の口元に浮かぶ笑みに気付く。
自分たちを見下ろす勝者の笑みは、片頬をわずかに引きつらせただけのもの。
それだけでその場の空気をすべて支配する少年は絶対的な存在だった。
立場の違う、絶対的な勝者。
かすむ意識の中で、地に伏す彼は悟った。
この少年は外見通りの人間ではなかったことに。
黒い髪に知的な眼鏡をかけた少年は絡んできた少年達に言い捨てた。
「力量を見極められないくせに人数で勝とうとするからだ。無様だな」
少年は何事もなかったようにその場を立ち去った。
***
高い空に入道雲がのっそりと動いている頃。
駅近くにあるコンビニへの唯一の通り道に、数人の学生が道を塞ぐ形でたむろしていた。
獅子学中の生徒である彼らは学生服を着たまま遊んでいた。
その付近を仕切っている不良少年だった。
特にやることもなかった彼らは、あまり見かけない一人の青年に絡んでいた。
数人で相手を囲い話し合いで相手から金銭を譲り受けたり、暴力で財布ごと巻き上げたりしようという魂胆があったからだ。
平凡で刺激のない日々を面白く過ごすことに懸命な彼らは、少しのスリルを味わうことに飢えていた。
肩よりも少し長い髪を日に輝く金色に染めている青年を、五人で囲み現金を出すよう要求した。
金色に染めているが同じ年頃の相手だ。
人数ではこちら側の方が優位にあるので少年達は自分たちの勝ちを確信していた。
しかし、彼らには少し間違いがあった。
肩より少し長い金髪の彼は彼らと同じ中学生であった。
そして、先日少年らを鉄橋の下で叩きのめしていった優等生タイプの、青年のような少年と同一人物。
九州に帰ってきた、獅子学中の手塚国光だ。
「見かけない顔だな。この道は有料なんだ。通行料払ってもらおうか」
「俺達は親切だからな。情報料も上乗せして払わせてやるぜ」
不良の一人が金髪の彼の肩を掴む。
「一人で俺達に敵うわけねーんだから、大人しく払えよ」
手塚は自分の肩を掴んでいる少年の手を叩き落とした。
まるでゴミを払うかのような仕草に一瞬、叩き落された手の人物は何をされたのか理解できなかった。
自分の周りを囲んでいる不良達の顔を見渡して、手塚は目を細める。
「進歩のない奴等だ」
馬鹿にした声で手塚は言った。
不良達のリーダー松林はその声に聞き覚えがあった。
数日前の夜、喝上げをしようとして返り討ちにされた少年と同じ声だと思い出す。
「ぁんだとっ」
気の短い一人が手塚の胸倉を片手で掴んで、今にも殴りかかろうと左の拳を握った。
首元を絞められた格好のまま、手塚は相手を見下した目で静かに見やる。
間近で射貫くような瞳に睨まれ、少年は殴りかかろうとしていた格好で固まった。
「おい、大滝何びびってんだ。なぐらねーの?」
手塚の後ろ、手塚を囲む不良達の後ろに目立つ赤い髪を四方に立たせている男がいた。
「そいつに手上げといて、ナニするつもりだったんだ、あぁ?」
「げっ、住吉!」
誰かがそう言って、不良達は手塚から離れた。
大滝と呼ばれ、手塚を殴ろうとしていた少年も数歩後ず去る。
赤い髪の住吉は乱れた服を直している手塚の隣に立った。
遠巻きに警戒している松林らを無視し、住吉は手塚に話しかけた。
「国光買い物か?」
「あぁ。久慈に頼まれた。お前はどうしたんだ?」
手塚が尋ねると住吉は肩をすくめて言った。
「ストロベリーチョコのアイスが食いたいだと」
それに手塚はクスリと笑い、「綾だな」と呟いた。
住吉はそれに何も返さなかったが、無言は肯定と同意だった。
二人に無視された松林達は怒りで顔を真っ赤にし、先ほどとは打って変って、二人に殴りかかってきた。
「てめーら、俺達を無視してんじゃねぇぞっ!」
「馬鹿にしやがって。ゆるさねー!!」
五人に一気に襲われた手塚と住吉だったが、臆する事もなく冷静に避けていた。
「上総、下がってろ。最初に売られたのは俺の方だ」
「知るかよ。俺にも楽しませろ」
右から襲ってきた拳を避け、バランスの崩れた相手の腹に左膝で蹴りを入れた住吉はとどめに相手の背中に肘鉄を食らわせた。
手塚はその間に二人を地に落とし、三人目の松林を綺麗な背負い投げで沈めた。
受身を取るまもなく地面に叩きつけられた少年達は背中の痛みに声にならないうめき声を上げる。
最後に残ったのは大滝少年で、彼は圧倒的な力の差を見せられてたたらを踏む。
「あ、お前、何なんだよっ」
冷ややかに笑った手塚はポケットから眼鏡を取りだし掛けて見せた。
昼と夜の違いはあれど、口元に浮かぶ勝者の笑みに見覚えがあった。
「あのときのムカツク野郎!」
大滝は悲鳴のような声で叫んでいた。
「犬でさえ一度しつけられれば覚えるんだ」
暗に犬以下だとほのめかす台詞に住吉が笑い声を上げる。
「国光、相変わらずひでー野郎だな」
「褒め言葉だな」
手塚はそう言って、立ちあがることもできない松林たちをそのままに歩き出した。
並んで住吉もコンビニへと向う。
残された少年達はしばらくの間屈辱に体を震わせていた。
翌日の朝。
獅子学中の三年生の教室前の廊下で少年達が談笑していた。
男子テニス部部長の戸田は遊び仲間である松林に話しを振った。
「そーいや、聞いたんだけど。お前等ボコられたんだって?」
それに嫌な顔をしながらも松林は答えてやった。
「っせーな。誰に聞いたんだ、んな話し」
「住吉上総」
ニヤリと笑って戸田は言った。
「上総はテニス部員だからな」
それを聞いて舌打ちした松林に戸田は爆笑した。
「戸田、てめーわざといいやがったな!」
「おいおい、冗談だって」
「くそっ・・・、それにあいつもムカツク野朗だ」
「ん?誰んこと言ってんの?」
尋ねる戸田に松林は少し考えてから話した。
「最初は黒い髪に眼鏡掛けててまんま優等生な奴だったんだけど、昨日は金パに眼鏡外してた奴とヤリあって・・・負けた」
「金パ?」
「住吉と知り合いみたいだった。すっげーヤバイ感じ」
住吉上総といえば高校生や他校の不良と喧嘩を繰り返す問題児で、獅子学中では有名だった。
運動部に所属している為、住吉は自分から喧嘩を吹っかけることはない。
しかし良くない噂は後をたたない。
「あー、それ国光のことか」
「あぁ?戸田も知ってんのかよ、そいつのこと」
松林が意外そうに聞き返した。
「お前覚えてねーの?ほら、あいつ」
戸田が向こうを指差した。
指された先にいた金髪の男に松林は驚いた。
「あいつっ、ここの奴だったのか?!見たことねーぞっ」
「こないだ東京から戻ってきた。手塚国光。松林もよく喧嘩吹っかけてたじゃん」
小学生の時、と言われ松林は少し引っかかっていた物を思い出した。
「てづか・・・あの手塚かっ!」
「それそれ。国光相手ならお前に勝ち目ないじゃん」
「戸田」
先ほど向こうにいた手塚に声を掛けられ、戸田は片手を上げた。
「よぉ。はよ、国光」
「あぁ、おはよう。久慈が探してた。顧問に呼ばれてるそうだ」
「あのじいさんまた変なこと思いついたんだろ。面倒くせー」
「ククク、ご苦労なことだ。俺も部長の大変さはわかるつもりだ。同情する」
手塚の言葉に戸田は笑った。
腹を抱えて手塚にもたれ掛かった戸田はしばらく笑いつづけた。
「つもりって、むこうでやってたんだろ?お前も」
手塚が口元をあげて苦笑した。
「優等生を演じるのは簡単じゃなかったさ。部長の仕事も生徒会長さえもやらされたんだ」
金髪に見え隠れする左耳のカフス、シャツのボタンを二つ外して着ている手塚は一見不良にも見える。
松林は手塚の言葉を信じられず、自分の耳を疑った。
「あんな今時いないような黒髪眼鏡じゃ、それもしかたねーじゃん」
「まぁ、その見返りは学園の信用と権力だったから楽しめたがな」
手塚の冷めた笑みを見て松林は寿命が縮んだ気がした。
そこにいたのは"他人を道具としてしか見ていない"人間だった。
手塚は松林に気付いていないようで、用は済んだとばかりに立ち去る。
「伝えたからな」
「おう。サンキュー」
松林とは逆の方向、来た道を戻っていった。
「なぁ、松林。お前気を付けとけよ?今国光がお前のこと睨んでたぜ」
ひょうひょうと戸田が言うので松林は一瞬言われたことを理解できなかった。
「は?・・・気付いてなかったじゃねーか・・・」
「ちゃんと気付いてたぜ。俺が国光のこと指差した時から」
「まさか、嘘だろ?」
松林は背中を冷たい汗が流れる嫌な感触に身震いした。
夏もこれからだと言うのに、松林には極寒の地にいるような気持ちだった。
「殺されはしねーから安心しろよ〜」
無責任に声をかける戸田に殺気を覚えたが、手塚が戸田と親しいことを思い出し松林は青くなった顔で頷くに留めておいた。
「俺、今日はもう帰るわ」
力なく去っていく松林を見ながら、戸田は悪戯に成功したような顔で必死に笑いを堪えていた。
「しばらく退屈しねーよなぁ。後で久慈にも言っとこ。いやぁ、楽しみ楽しみ」
彼もまた、刺激のない学校生活に退屈していた学生の一人だった。
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脱稿2003.11.10 大星
再掲載2009.11.07 大星



